翡翠の歌

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料理 : 『毛皮のコートを着たニシン』サラダ [魚に関連するロシア語]




赤いビーツの印象的な見た目と特異なネーミングで、よく知られているサラダです。ビーツと野菜、ニシンがミルフィーユケーキのように重なっていて豪華で、もちろんおいしいです。ぜひロシア料理店でお試しください(画像はサンクト・ペテルブルク市内のレストランです)





サラダの構成例
トッピング
ゆで卵(みじん切りか裏ごし)、ウクロープ
最上層
ビーツ(ゆでて千切りにし、酢と植物油、砂糖、塩、ホワイトコショーで調味し、水分を切ったもの)
中間
ニシン(酢漬けにして細かくし、みじん切りのさらし玉ねぎとマヨネーズで和えたもの)
最下層
じゃがいも(ゆでて千切りにして、塩、ホワイトコショー、砂糖、マヨネーズで和えたもの)


*ウクロープとは、ディルのことです。
*ビーツは、缶詰が便利です。
*ニシンの酢漬けは、しめさばで代用可。IKEA扱いの瓶詰は味が異なるのでお勧めしません。
*マヨネーズは日本製を使うなら控えめに、『リアルマヨネーズ』(アメリカ製の商品)を使うならたっぷり。
*中間に、人参やきゅうりの千切りの層を加える人もいます。お好みで。





このサラダの歴史
1919年頃のソ連で、ある居酒屋が作って好評を博し、広まりました。僅かな動物性タンパク質といっぱいの野菜でリッチな味と見た目になり、食べでもある、庶民大助かりのレシピです。





美味しくするポイント
1、全ての野菜を出来る限り細く千切りにすること。そうすると食べ進むうちに全体にホロホロと崩れてきれいに混ざり合い、見た目も食感もよいのです。


料理におけるロシア人に対するイメージはもしかしたら「大雑把、細かいこと苦手」かもしれませんが、それは大誤解です。特に野菜に関しては、機械を使わなくても、日本人も脱帽の本当に細い千切りやみじん切りをしています(まあ、どこにも不器用さんはいると思いますが)


2、それぞれの水分を出来るだけ切ること。あまいと全体にべちゃべちゃの食感になり、ビーツの赤色がほかの具材について美しくありません。


3、使うマヨネーズを選ぶこと。ロシア製のがあればベストですがほぼ入手不可能なので、ヨーロッパやアメリカのさっぱりしたものがよいです。入手可能な商品としてアメリカ製の『リアルマヨネーズ』がお勧めです。日本のは"調味料のマヨネーズの味"がして、くどくなりがちです。





奇妙なネーミングの由来
貧しくとも革命成就の高揚が社会に満ち溢れていた時代なのでしょう、正式名称は『排外的愛国主義と退廃主義はボイコットし破門しろ』サラダです。


そして具材も、ジャガイモは小作や農民を、ニシンはプロレタリア階級を、ビーツは血と共産主義を象徴したそうです。


スローガンのような正式名称の頭文字を並べたところ"ШУБА"(毛皮)になるので、『毛皮のコートを着たニシン』サラダになったというのが通説です。


Шовинизму и Упадку ‐ 
          Бойкот и Анафема

                            (下線部はアクセント)


анафемаは俗語では、ののしる際の「ばちあたり!」ですが、本当の意味は、正教会の呪詛であり、「破門!」。ついつい命名しちゃったけれど、宗教否定の共産主義下でそのレシピ名はまずかったので、改名したのかもしれませんね、もしかしたら。





ロシアで食用にされる魚に関連するロシア語を紹介します。


・魚 рыба
・ニシン сeльдь
     сeлёдка
・鮭 кeта
   лосось
・タラ трeска
・スズキ судак
・チョウザメ oсётр
・フナ карась
・ニジマス фoрeль
・カワカマス щука





クラウスが釣ろうとしていた魚、"フラットフィッシュ"。調べてみると、メゴチやヒラメなど、海底にすむ扁平な魚の総称で、河口でとれるものが美味しいそうです。なので、海でも河口でもないレーゲンスブルクでは釣れなさそう(当時オーストリアの川域では、スズキ、コイ、カワカマスが釣れたようです)。具体的な魚名を出さなかったところがオシャレ。むしろ、"フラットフィッシュ"という言葉って一般的でしたか?




主たる参考資料
ニシンが毛皮? / とくながなつみ 日本ユーラシア協会神奈川機関紙 2020年3月号
にしんの山椒漬け・番外編 ーラッコの毛皮を着たニシンへの道のりー / 山内明美 いただきもの おすそわけ 出版舎ジグ jig-web 連載 2020年10月6日up
この社会主義グルメがすごい ソ連編@  / 内田弘樹 プロイェクト・オスト 2018年8月12日発行
音メシ! 作曲家の食卓#1 ベートーヴェン 〜ドナウ川の魚を偏愛した「魚喰い」 / 遠藤雅司