サンクトペテルブルク中心部には、歴史ある有名な劇場が幾つもあり、画像は、ソ連時代はキーロフ劇場(暗殺された革命家の名前)と呼ばれ、ソ連崩壊後、旧名に戻ったマリインスキー劇場です。建築したアレクサンドル2世の皇后マリアに因んだ名称です。
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ヒロインが爆弾で暗殺されかけたあの劇場はどこなのか? 未だ私にはわかりません。外観の丸天井、三角の破風、8本の列柱と四角い窓。
そして、内部の広くて長い階段のアプローチ。ただ、劇場は入口から割りとすぐに客席に入る扉があって、あんなふうな余裕あるところ、私には経験ないです。まるで宮殿のようですが(例えば、冬宮の中のエルミタージュ劇場とか?)、そうだとしたら、もっと大騒ぎになったと思います、皇族を狙ったかも、ということで。
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可能性としては、原作者の手元にあった、モスクワにある劇場や、劇場ではない建物の外観、内観を組み合わせただけなのかもしれません。というのも、多くの劇場の外観は、日本人から見て、劇場っぽくないんですよね、絵的に普通の感じ。それに、狭いホワイエでは、ヒロインとアナスタシアの会話の場面が内緒話にならないし。
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そして、原作者のジレンマもちょっと感じます。執筆当時の呼称、エルミタージュ美術館や旧海軍省を、冬宮や海軍省に言い換えるのは、ソ連政府側も仕方ないと考えたでしょうけれど、キーロフ劇場やレニングラード国立歌劇場を、皇后やキリスト教聖人の名が元となった帝政時代の名前で書くことには難色を示したかもしれません。旧名を教えてくれなかったかもしれないし。
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日本も現代、ネーミングライツにより、企業名や商品名を冠した施設があちこちにあり、それも、ロシア以上にコロコロと変遷していますから、小説とか漫画とかでどう書いているんだろうと思います。書く必要がないとか、必要がないことにできればいいけれど、そうでない場合…。
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以下、アエロフロート機内誌(2015年秋号)掲載の、《華麗なるダイナスティ ユスポフ家》からの引用記事です。
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・・・ユスフ=ムルザの後裔から始まったユスポフ家は、ついに上り詰めたかのようであったが、その富をもたらしたロシア帝国の命運は尽きようとしていた。
皇后アレクサンドラの絶大な信頼を得て国家政策にまで口を出した僧侶ラスプーチンの存在、彼の助言にも関わらず、対ドイツ戦争への介入を決定した皇帝ニコライ2世。
ラスプーチンこそ諸悪の根源と確信したフェリックスは、1916年12月のある晩、彼をモイカ宮殿に誘い、ドミトリー大公らと殺害した。
「自分が貴族に殺されるようなことがあれば、ロシア帝国は終焉するだろう」というラスプーチンの予言をフェリックスは知らなかったのだろうか。
その2か月後、皇帝は退位、300年続いたロマノフ王朝と疲弊しきったロシア帝国は滅び去った・・・
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これって、予言というより、脅迫のような。
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