翡翠の歌

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モイカ宮殿 : 緑の間 (マントルピース) [孔雀石]




客間としても使われていたようです。この孔雀石にカバーされた暖炉といい、カレリアンバーチのショーテーブルといい、最新流行の貴重な素材で、しかも伝手がなければ入手できない大きな製品を、敢えて設置して、待たせている間に見せびらかしていたとかいないとか。


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おなじみの鉱物、孔雀石。ピーコックストーンやマラカイトと呼ぶより、なぜか雰囲気、ありますよね。





【インテリア素材として大人気だった孔雀石】


銅鉱床の発見、開発が進み、その周辺で採れる孔雀石は当時、大流行の鉱物でした。特にウラル地方では模様と緑色が美しく、しかも大きな塊が産出し、モスクワやサンクト・ペテルブルクの宮殿、大邸宅を飾るだけでなく、帝室からの贈り物をはじめ、ロシアの重要な輸出品となりました。


宝石級の孔雀石の産出は限られていたため、財力と共に伝手がないとなかなか入手できなかったそうです。皇室や大貴族、大商人、そして彼らの庇護を受けた大教会、ですね。


今でも、イサーク寺院や冬宮(エルミタージュ美術館)、エカテリーナ宮殿などの柱やマントルピース、巨大な花瓶の"緑"に圧倒されます。





【孔雀石の性質】


硬度が低いため、半貴石に分類されます。加工がしやすい半面、慎重な扱いが必要です。水分や汗、酸やアンモニア、熱、日光、暑さに弱いので、アクセサリーでしたら、真珠並みの配慮をしないと、せっかくの光沢を失ったり、変質したりします。ましてやぶつけたりすれば、欠けたり割れたり凹んだり・・・あれっ? そう言えば、誰かさんは落としていましたね、派手に。





【孔雀石の正体と産出場所】


孔雀石の緑色は、銅が酸化して生じたもの、要するに十円玉やブロンズ像の銅緑(緑青 ロクショウ)、つまり緑色のサビ。ですので、銅鉱床の周辺に出てきますから世界中で(日本でも)産出しますが、ロシア産の、しかもウラル産のような宝石の水準に相当する品質のものは滅多にありません。


ウラル地方は他にも様々な美しい石材が産出することでロシアの宝物庫と呼ばれ、貴石細工はロシアの伝統工芸となりました。バレエや映画にもなった"石の花"というロシア民話は有名ですね。


貴石細工の画像はこちら(各ページの一番下にあります)

・最終部 表紙 
・最終部 05 





【孔雀石の用途】


@すり潰して、還元反応させる
加熱して銅を取り出すのですが、効率が悪く採算がとれないので、銅鉱床が見つかった時点で放棄されました。


身近なところでは、中学校などの、酸化と還元反応を学ぶ理科の実験で行われています。


Aすり潰して、ほぼそのまま使う
日本では古くから「岩緑青」(古名は"青丹")という顔料として使われていました。エジプトではアイシャドーとして使われ、それゆえか、今でも、眼病に効果ありとされるパワーストーンだそうです。花火の発色剤にも使われているそうです。


@やAのように使うのは、反対に言えば"石そのものでは美しくはない"からです。以下BやCの用途の、孔雀の羽のような、同心円状の目玉柄と、細い線の層状縞模様で、かつ美しい色のものは世界的にも珍しいのです。ですから日本での"孔雀石"という名称も、国内では産出されない、美しい輸入品をさすことから始まりました。


B粒のまま、研磨して使う
アクセサリーや小さな置物として使う。


C薄くスライスして使う
マントルピースや柱、花瓶を、大きな孔雀石から削り出したり、くりぬいたりして作ったと無知な私は何となく思っていたのですが、それは間違いでした。


原石を見ればわかるように、孔雀石って小さな塊がごつごつと集合している感じなんですよね。ですから一枚岩みたいには加工できないです。


では大きなものはどうやって作っているのか。


それはモザイク、です。箱根の寄木細工のようにうすーく石を削って貼り付けていく、化粧貼りなのです。ですから近づいてよく見ると、ツギハギなのがわかります。


画像はモイカ宮殿の客間のマントルピース(暖炉焚口の飾り)です。少し離れれば、まるで一つの岩から切り出したように、特徴ある模様が繋がって見えますが、それは職人がそう見えるように緻密に組み合わせているのです。驚くのは、石としては柔らかいので、花瓶や円柱のような曲面もオッケーということ。





孔雀石細工の画像はこちら(各ページの一番下にあります)
・最終部 07 
・最終部 16 





【"マラカイト"の由来】



マラカイトというのはギリシャの呼び方で、模様や色が、銭葵(ゼニアオイ = マラーキー)の葉に似ていることからきているそうです。


銭葵は、日本には江戸時代に鑑賞用として持ち込まれ、頑強な性質のため根付いてしまった、今ではあちこちの空き地でも見られる帰化植物です。銭葵の銭は、古代中国のお金"五銖銭"の大きさと同じくらいからきているとか。


マロウというハーブでもあり、和漢植物でもあります。





【ロシア帝国での孔雀石】



17世紀末、ピョートル大帝以降、ロシア帝国ではウラル山地やシベリア地方での鉱山開発を行い、重工業発展の礎を築く一方で、イタリアなど各地のモザイク(象嵌)細工の技術を自国民に習得させました。


特に、貴重な宝石級品質の孔雀石を産出し、それを用いた装飾技術はロシアの独壇場だったらしく、各国王室などへの贈り物にも多用されました。しかしそれを支えた鉱夫や工芸職人の待遇は劣悪で、有害な滲出水に浸りながらの坑道での採掘や、吸い込む粉塵で病気になり、使い捨てにされました。


やがて、次第に産出量が減り、革命もあり、大貴族や大富豪というパトロンがいなくなって、人々の好みもかわって廃れていきました。ですから、"オルフェウスの窓"の描く1800年代半ばから1900年代初頭は"孔雀石の時代"でもあったとも言えるでしょう。


その箱に暗殺命令を忍ばせるなんて!





【孔雀石の石言葉】


〜危険な愛情〜


〜一途すぎる心は時に危険を伴う〜




彼の"石でできた心"の"石"は、

孔雀石だったのでしょうか。

意外と脆い、という点が似ているような・・・。






<主な参考サイト>

・鉱物たちの庭
・マラカイト / なんぼや
・ゼニアオイとは? / BOTANICA
・Wikipedia