05 何のために
レオニードが用意してくれていたアパルトマンに身を潜めている。
社交界の知り合い、まして革命側に見つかると厄介だから大劇場や高級店には行けないけれど、小さなコンサートや公園に出掛けて過ごす。
ここは仮住まい・・・でも、生まれて半年はいることになる。
レーナって不思議な子。
ロシアから、いいえ、サンクト・ペテルブルクからすら出たことなかったのに、あっという間に周囲に馴染んでいる。
評判のいい産婆も見つけてきてくれた。
* * * * *
ずっと考えている。
隠し財産は・・・どうしたらよいのだろう。
でも、陛下の動静は・・・何一つ伝わってこない。
退位させられたのだから、革命側に捕らえられている。
まだ冬宮? それともほかの?
そこからどうやって亡命するの?
誰が助けてくれるの?
それに考えてみれば、陛下はどうやって私を捜すの?
私はどうやって陛下を捜すの?
聞いて歩くわけにいかないじゃない。
伯爵は言っていた、愚か者って。
そうよ、愚か者よ・・・あなたに言われなくたって、本当はわかっていた、きっとレオニードも。
財産のことより、まず国外に出る算段を付けておきなさいよ。
機会を逃してしまえばおしまいなのに・・・。
放っておけばいい?
でも、ごく少数でも隠し財産のことを知っているロシア人は生き残っているだろう。
ドイツ以外にフランスとイギリスにも隠されているから、鍵を守っている人が何らかの動きを見せるかもしれない。
一旦事実が明るみに出れば、私のことなどすぐ知れてしまう。
あの人たちの愚かさの為に、この子に動乱の火の粉が降りかかるのは絶対に防がなければ。
そうよ、火の手はよそで上げなくては。
出産したら、すぐに動き出そう。
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