翡翠の歌

08 二の舞




あと一週間待ってみよう、頑張ってみよう・・・その都度そう思った。

でもマリアは相変わらず・・・。
いいえ、もっとひどく拒絶するようになった。

昨日は・・・昨日は、もうどうしてよいかわからず、とうとう手を上げてしまった。
ヴェーラが止めに入ってくれなかったら、どうなっていたか。

あんなに健康で生気に満ちていたのに、みるみるうちに痩せて青白くなってしまった。
食事もせず、部屋に閉じこもっていては・・・。





どうして?
あなたのお母様は私よ!
あなたが生まれてくるのをあんなに待ち望んでいた、アレクセイと一緒に・・・。
記憶が戻ってからは毎日あなたのことを思ってきた、戦争が終わるのを今か今かと。

それなのに・・・手放したのは・・・手放したのは、私のせい?
離れていた私には、もう何の資格もないの?

ああ、まるで・・・まるで、私のやっていることは、あの頃のレオニードと同じ。
正しいと思って・・・あなたのためだと思って、閉じ込めて力づくで言うことを聞かせようとしている。
自分はこんなに想っているのに、ずっと想ってきたのに、何故わかってくれないの?
苛立ちが最愛の人に向かってしまう。

ヴェーラは何も言わない。
お姉様を母と呼ばせたことを後悔しているようだった。
せめて小さい頃から本当の母の存在を教えておけば、こうはならなかったかもしれないと・・・。

でも・・・それはわからない。
生まれた時からずっと傍らにいて育ててくれた人、それが母というものだろうから。

あの時は、仕方がなかった。
レオニードもヴェーラも、お姉様も・・・。
皆、私とあの子のために最善を尽くしてくれた。
それはわかっている、深く感謝している。
二人とも死んでいたかもしれないのだから・・・。

死んで?

ああ、そうだ・・・。
そうだ、死んだのだ、あの時、あのアパートで。
ユリア・ミハイロヴナとその赤ちゃんは・・・死んだのだ。

ここにいるのは、マフカ・アレクサンドロヴナ・ユスーポワと、見ず知らずのマリア・フォン・アーレンスマイヤなのね。

レオニードには・・・選択の余地がなかった。
でも、私には・・・。

大切なのは私が母であることではない・・・マリアの幸せ。
私の辛さなど、それに比べたら・・・。
そうよね、アレクセイ。
あなたも賛成してくれるでしょう?

あなたは今どうしているの?


*     *     *     *     *



乗ろうとした時、ヴェーラに促されて、手を振ってくれた。
泣きはらした顔に精一杯の笑顔を作って。

車が去っていく。
私は強く拳を握り締め、口に当てて嗚咽を堪えた。
いつか・・・いつかまた会えたら、今日の分も抱き締める。

お姉様、マリアのためにも手遅れにならないうちにドイツを出てください。
私はあの鍵を大公殿下に届けます。

エヴァが縋り付いてきた。
ああ、私にはあなたがいた。
あなたとマリアと皆を守るための闘いが始まる。
レオニード、アレクセイ、力をください、最後までやり遂げる力を。





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