04 決別
力強い足音を立てて上がってくる。
今日も帰ってきてくれた!
夕食はできているし、話したいことも沢山ある。
扉に駆け寄って、すぐにでも開けたいけれど、駄目。
ノックの音を確かめないと。
二回叩いて、一呼吸置いてから三回叩く、それが合図、今月のね。
勿論、鍵は持っている。
でも開けてもらいたいみたい、甘えん坊!
だから暖炉のそばに立って、いざとなれば銃で我が身を処せられるようにしてから、聞き耳を立てる。
トン、トン・・・。
トン、トン、トン・・・。
ああ、彼だ、アレクセイ!
無用になった銃を戸棚にしまい、弾むように扉に取り付き、内鍵を回して大きく開ける!
お帰りなさい!
言葉が先か抱きつくのが先か、もう同時よね!
え?
口を開く前に、両腕を広げる前に凍りついてしまった。
どうして、あなたが?
どうしてあなたがここに?
彼は手を伸ばして私の腕を掴もうとした。
とっさに後ずさりして逃れたけれど、いつの間にか背後にいたロストフスキーに抱きかかえられてしまった。
嫌よ!
嫌よ!
離して!
お願い!
ここは?
ああ、あの塔だ、一つだけ窓の開いている・・・。
来ないで!
離して!
嫌よ!
やめて!
こんなところで!
許してよ、もう。
お願いだから、もう解放して。
*
名を呼ばれ、強く揺さぶられて目を開けた。
ああ、アレクセイ・・・クラウス・・・。
ごめんなさい、大丈夫、大丈夫よ、いつもの・・・夢だから。
この間までは思い出すことなどなかったのに・・・。
きっと・・・ますます大きくなる幸せを誰かに、何かに奪われることを恐れているのだ。
* * * * *
ヴェーラは・・・護衛の人たちは・・・どうなったのだろう。
杜撰な計画だっただけに心配。
でも・・・確かめる術はないし・・・確かめてどうなるの?
嫌だ・・・皆殺しにして逃げようと思った私が・・・本当に偽善者だ。
心配・・・しているでしょうね・・・私のこと・・・私の存在のこと。
当局があの襲撃の背景を今でも追及しているとアレクセイに聞いた、取り締まりも一段と厳しくなったと。
アレクセイたちは、勘違いとしても陛下の姪を狙ったことへの報復と捉えているようだけれど、私はそれは違うって知っている。
サンクト・ペテルブルク守備隊の隊長になったってヴェーラが言っていた、離婚の報復に。
彼は私を捜しているの、その権限を利用して。
いくら鍵の情報はもう渡してあっても、皇室の秘密を知っている私を野放しにしてはおけない。
死体を確認するまでは終わりにできない。
私が生きているって知らせる?
そして、アレクセイと一緒に暮らしているって知らせる?
黙っているから安心してって?
もう捜さないでって?
あり得ない、そんなこと。
それで彼が諦めるなんて絶対ない。
アレクセイを逮捕してください、私をまた監禁してくださいって言っているようなものよ。
*
恨んでいます。
許さない、私にしたこと。
あなたが忘れても、私には忘れられない。
本当に怖かった、本当に嫌だった・・・あなたに抱かれることは。
閉じ込められて死ぬこともできず、周りにいるのはあなたの味方だけ。
いくらアレクセイの為と、受け入れるだけと思っても思おうとしても悍ましかった・・・あなたも、変わっていく私の体も・・・地獄の日々だった。
でも、終わらせないと、自分で・・・もう。
認めるわ・・・こうしてアレクセイに会えたのはあなたのお陰だと・・・世界で一番広い国、このロシアに当てもなく来て・・・。
・・・もしあの突堤で暴動から助け出してくれなければ・・・侯爵家で庇護してくれなければ・・・それがあんな監禁であっても・・・今の私はいない、から。
ありがとう、そして、さようなら・・・永遠に。
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