翡翠の歌

07 祈り




(1)



赤ちゃんが・・・来てくれた・・・こんな私のところに・・・。
幸せすぎて怖いくらい。


ガリーナにいろいろと教えてもらいながら準備を進めていると、逝ってしまったあの子のこと、あの頃のことが思い出される。


それでも・・・待っていたの、あなたのことを。
神様が授けてくれたのだもの。


生まれていれば、今頃三つ?  歩いて、何か話している頃?
男の子だったの?  女の子だったの?
詳しくは教えてくれなかった・・・彼も・・・ひどく傷ついていた。


あの時だって必死に守ったのに・・・アデール様とあの神父から。
なのに自分の弱さで・・・失ってしまった。


皮肉なものね。
もし・・・あなたが生まれていれば・・・私はアレクセイと再会しなかった。
でも・・・もし・・・生まれていれば・・・何も知らずに・・・それはそれで・・・生きていたのだろう。


あなたの命の上に・・・今の私の幸せがある。





花売りから一枝買って、足は教会に向かっていた。
あの子の命日はまだ先だし・・・一族の方々のもここしばらくはないはず・・・誰も訪れていないでしょう。


あの後、幾度もお参りに来た。
生まれてもいない子ども、それも愛人の・・・そんな子を納めてくれるなんて・・・アンナも驚いていた。
・・・あなたも・・・あの子を愛していたのね。


ごめんなさい、この世に迎えてあげられなくて。
あなたの弟か妹がお母様のところに来てくれたの。
見守っていてね。
あなたのこと、決して忘れないから、お願いね。


*     *     *     *     *



(2)



今日は、あの子の命日・・・私が死なせてしまった子の。
お兄様は練兵場に詰めておられるから、一人で祈りを捧げに来た。


お父様もお母様もここにお眠りになっている・・・そしてニコライお兄様・・・。
アルハンゲリスコエの墓所が完成したら、皆でそちらに。


どうかあの子を可愛がってください。
お兄様が、あのお兄様が愛した女性との子なのです。


彼女は望んでいなかった、お兄様の愛人になること、お兄様の子を宿すことなど、微塵も。
でも・・・お兄様は・・・愛していらした・・・怖いくらい一途に・・・最初から。
あの日、血だらけの彼女を抱えて帰って来られた時からずっと・・・。
今は・・・行方知れずに・・・必死に探しておられるけれど。





言わなければよかった。
いいえ・・・行かなければよかった。


エフレムのことから逃げてお兄様から逃げて、二年もモスクワにいて・・・現実を避けていた。
その間に彼女が味わっていた苦悩を知ろうともしないで放っておいたのに。


あんなことをしなければあの子は生まれていた、そして二人目も・・・。
療養に行く必要もなくて襲撃されることもなくて、今もお兄様と子どもたちと暮らしていたはずなのに。
そう、アデール様がいなくなったのだから、皆で穏やかに・・・もうアレクセイを忘れて・・・。
それも一つの幸せの形だったのに。


涙が止まらない、自分の罪の重さに。





滲んだ視界に、茶色の何かがぼんやりと映った。


これは?


見回してもあの木はなかった・・・。


ああ、生きているのね?
ここに・・・ここに来たのね?


どうしているの?
大丈夫なの?
・・・幸せなの?




お兄様には・・・言わないわ・・・お心を乱すだけだから・・・そのほうがいいのでしょう?  戻ってこないということは・・・。
でももし本当に困った時には頼ってきて。
あなたからのメッセージがないか、私もここに来るから。


*     *     *     *     *



思わず飛び起きた。
夢で目が醒めるなど滅多にない経験だった。




幸せそうに寄り添う男女。
質素な身なりだが、生気に溢れた二人。
プラトークを風に奪われそうになり、手を伸ばしたが、間に合わず広がった髪・・・自ら発光しているかのような金の。


こちらに向けた視線から笑みはあっと言う間に消え去り、冷ややかな蔑みのみ。
そして男に更に寄り添い見上げ、再び向けた瞳には誇らしげな力強さが。




お前、まさか。
いや、あり得ん・・・あの襲撃は・・・。
奴らはアデールを狙ったのだ・・・そのはずだ。


まさか・・・偽の情報を・・・流したか? 奴らに。
自分を襲わせ、逃亡したのか?
予めバイオリンを伯爵夫人に渡し、あのターラーを身につけ・・・。


馬鹿な。



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