翡翠の歌

34 神は赦さぬ




気が重い。

どう話せばよいのか。
いや、まず目を合わせることすらできぬかも知れん。
あいつ相手だと戸惑うばかりだ。


*     *     *     *     *



「閣下、大変遺憾です。手は尽くしましたがこれ以上は・・・。今回はお子様はお諦めください。せめて奥様だけでもお救いください」


是非もない。
気を失いかけながら私をじっと見た、あの眼は生涯忘れぬだろう。


「それでも・・・それでも・・・信じていたのに、あなたを・・・」


だからこそ言えなかった、あの男の死を。
言い訳にしかならぬが。


*     *     *     *     *



気が重い。

だが、見舞わぬわけにもいかぬ・・・逃げることはできぬのだ。


「礼拝堂?」
「はい。どうしてもとおっしゃられまして」


あの体でこの寒さの中、まったく何をしているのか。
私への誅罰を・・・奴の冥福を祈っているのか。

レーナを下がらせ、そっと近づいた。
小さく聖書の言葉を刻みつけている。
祈りを妨げたくはないが、身体を考えるとそうもいかぬ。





抱えて居間に戻り、寄り添って掛けた。
思いのほか抵抗なく、返って心配だ。
引き寄せ、髪を撫で・・・すっかり冷え切っている。
泣きはらしたのだろう、目元は腫れ瞳に碧色は微かもない。


「すまなかった。約束を守れなかった。私の力が及ばなかったのだ」
「・・・火事でって・・・ヴェーラが」
「そうだ。看守の火の不始末が原因だ。助かった囚人はいない」
「・・・どうして言ってくれなかったの?  あなたから」
「・・・お前を失いたくなかった」


何故、何も言わぬ?
責めてくれ、責め立ててくれ。
そのほうがどれだけ気が楽になるか。

固く握り合わされた手・・・ハンカチと思ったが違う。
ああ。
産着だ。
お前は・・・あの子のためにあそこにいたのか。

息子だったのだよ、黒髪の・・・。
泣きもせず目を開けもせず・・・決めていた名で呼ぶこともなく・・・。

迷信と片付けていた"魔術師の呪い"。
私に払う力がなく・・・いや、それどころか呼び込んでしまったのだ。


「お母様はそれでも産んでくれたのに・・・私にはできなかった。弱くて情けない。守らなければならなかったのに守れなかった・・・クラウスも・・・赤ちゃんも・・・失ってしまった・・・私・・・何のために生きてきたの?」


そのようなことを言うな。
責められるべきは・・・罰せられるべきは・・・私なのだ。


*     *     *     *     *



あれから幾日も経ち、幾度も見舞っている。
が・・・なぜ問い詰めぬのか不可思議だった。
恨み言も何も発さぬ。
口数は極端に少なく、たまに交わすのはまるで普通の夫婦のように穏やかな会話。

わかった、ようやく。

私のことなど、もはや関心の外なのだ。
憎しみも軽蔑もそのようなものすら、なくなってしまった。

子がおらねば・・・奴がおらねば・・・私の存在は・・・。





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