鍵の外された窓や扉。
きっと屋敷中にあった鎖鍵がどこかの部屋にうず高く積まれているのだろう。
私の為を思ってなのでしょうけれど・・・そうかしら?
・・・クラウスはもういないし・・・逃げ出したところで行くあてもない。
鍵の在り処は知ったのだから、私がどこかでのたれ死んでも構わないのかも。
・・・私、ひねくれている?
不思議ね。
自由が手に入る、そうなったらなったでここに留まっている。
*
あの子のことを考える。
どんな子だったろう?
男の子? 女の子?
髪は金色? それとも・・・黒?
どんなふうに笑ったの? 泣いたの?
私が母に相応しくないから・・・。
弱いから・・・。
自分で精一杯の情けない女だから・・・。
取り上げてしまわれた。
毎日祈っても、侯爵家の墓所に埋葬してくれても、赦されない。
私は・・・私は・・・どうしていつもこうなのだろう。
誰よりも私をお召しください!
なぜここに留め置かれるのですか?
*
彼のことも考える。
今、あの人に何の価値があるのだろう。
クラウスも赤ちゃんもいないのに。
・・・彼は陛下に・・・祖国に必要とされている・・・守るものがある。
それなら私は?
私は何の価値があるだろう、守るものがあるの?
抜け殻のような私は、抱かれている時だけ生きているって感じられる。
何も考えずにいられる。
もう私、娼婦なのだ。
娼婦には娼婦に相応しい人生を・・・男の足元で・・・仕方ないの?
*
ああ、唯一の望みがあった・・・生き直す望みが。
陛下が亡命なさる。
そうしたら、この屋敷を、この国を離れられる。
正々堂々と、むしろ手厚い保護を受けて。
だって、私が鍵の元に辿り着けなければ意味がないのだもの。
そして・・・彼はここを離れられない・・・どんなに悔しくても。
やっと・・・ああ、やっと彼から自由になれる。
それまで待つの?
あの鍵が私を解き放つまでここで待つの?
* * * * *
「奥様、ヴェーラ様がお見えです」
「・・・」
これで幾度目だろうか。
いつも断っていた、失礼は承知の上で・・・。
怖い!
責められる!
今更、会う必要がある? 何のために?
罵声しか! 罵声しか想像できない!
涙しか! 涙しか想像できない!
でも・・・逃げてばかりでは・・・。
「そう・・・お通しして・・・」
*
無言で・・・向き合っていた、しばらく、いいえ、長い間・・・。
恋人を売られたヴェーラ・・・。
どうしたいの? 私を?
殺すなら・・・殺して・・・お願い・・・私を自由にして。
「ごめんなさい・・・許されないことだけれど、後悔しています」
「?」
「不用意な話を・・・してしまって・・・赤ちゃんがいるなんて思わなくて・・・」
「ヴェーラ! 違う! 私が弱いからなの! 情けないからなの! あなたが謝るなんて・・・。ごめんなさい、私・・・私こそ、あなたの・・・大切な・・・あの人を・・・」
あとはもう・・・言葉が続かなかった。
・・・私たちは、ただ手を取り合って泣いていた。
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