翡翠の歌

36 許し


オルフェウスの窓 二次創作 翡翠の歌


鍵の外された窓や扉。
きっと屋敷中にあった鎖が、どこかの部屋に、うず高く積まれているのだろう。


私の為を思ってなのでしょうけれど・・・そうかしら?


・・・クラウスはもういないし・・・逃げ出したところで行くあてもない。
鍵の在り処は知ったのだから、私がどこかでのたれ死んでも、構わないのかも。


・・・私、ひねくれている?




不思議ね。


自由が手に入る、そうなったらなったでここに留まっている。


*



あの子のことを考える。


どんな子だったろう?
男の子?  女の子?
髪は金色?  それとも・・・黒?
どんなふうに笑ったの? 泣いたの?


私が母に相応しくないから・・・。
弱いから・・・。
自分で精一杯の情けない女だから・・・。
取り上げられてしまった。


毎日祈っても、侯爵家の墓所に埋葬してくれても、赦されない。
私は・・・私は・・・どうしていつもこうなのだろう。


誰よりも私をお召し上げください!
なぜここに留め置かれるのですか?


*



彼のことも考える。


今、あの人に何の価値があるのだろう。
クラウスも赤ちゃんもいないのに。


・・・彼は陛下に・・・祖国に必要とされている・・・守るものがある。
それなら私は?
私は何の価値があるだろう、守るものがあるの?


抜け殻のような私は、抱かれている時だけ生きているって感じられる。
何も考えずにいられる。


もう私、娼婦なのだ。
娼婦には娼婦に相応しい人生を・・・男の足元で・・・仕方ないの?


*



ああ、唯一の望みがあった・・・生き直す望みが。


陛下が亡命なさる。


そうしたら、この屋敷を、この国を離れられる。
正々堂々と、むしろ手厚い保護を受けて。
だって、私が鍵の元に辿り着けなければ、意味がないのだもの。


そして・・・彼はここを離れられない・・・どんなに悔しくても。
やっと・・・ああ、やっと彼から自由になれる。


それまで待つの?


あの鍵が私を解き放つまで、ここで待つの?


*     *     *     *     *



「奥様、ヴェーラ様がお見えです」
「・・・」


これで幾度目だろうか。
いつも断っていた、失礼は承知の上で・・・。


怖い!
責められる!


今更、会う必要がある?  何のために?


罵声しか!  罵声しか想像できない!
涙しか!  涙しか!


でも・・・逃げてばかりでは・・・。


「そう・・・お通しして・・・」


*



無言で向き合っていた、しばらく・・・いいえ、本当に長い間・・・。


恋人を売られたヴェーラ・・・。
どうしたいの?  私を?
殺すなら・・・殺して・・・お願い・・・私を自由にして。


「ごめんなさい・・・許されないことだけれど、後悔しています」
「?」
「不用意な話を・・・してしまって・・・赤ちゃんがいるなんて思わなくて・・・」
「ヴェーラ?  違う! 私が弱いからなの! 情けないからなの!  あなたが謝るなんて・・・。ごめんなさい、私・・・私こそ、あなたの・・・大切な・・・あの人を・・・」


あとはもう・・・言葉が続かなかった。


・・・私たちは、ただ手を取り合って泣いていた。





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