今日はアンナ様がとっても張り切ってる。
ヴェーラお嬢様の贔屓のお店から、おかみさんとお針子たちが持ってきた。
テーブルいっぱい・・・ほんと、きれいなのばっかり。
アンナ様が通訳しながらお伺いを立てて、布やデザインを選んでる。
これで何着目だろ。
若奥様だってこんなにはお作りになってなかった気がするけど。
でも奥様はまるで興味ないみたい。
どうしてかな・・・あたしだってわくわくしちゃってるのに。
こんなきれいなドレスでパーティーに・・・素敵!
奥様についてそんなとこ行ってみたい、もちろん覗くだけだけどね。
キラキラした青いのと薔薇の花がいっぱい刺繍されたのを選んで、デザインも選んで採寸して、おかみさんたちは帰って行った。
本当に作り甲斐がありますわなんて言ってたけど、お世辞じゃないよ、奥様って、すっごくすっごくおきれいだもん。
だけどさ・・・襟は高くして、袖は長くしてって。
あたし、知ってる。
傷跡がひどいの、体中。
今も・・・時々寝台に血が染みてる、若旦那様がいらっしゃると。
この前は本当に酷かったよ。
でも奥様はなんにもおっしゃらないし、アンナ様も黙ってお薬や香油を塗って差し上げるだけ。
*
夕方には若旦那様からの贈り物が届いたんだ、こんなの、初めて。
大きくて重い箱と小さな箱。
奥様はずっと外を見てらっしゃる、いつものように。
お開けしましょうかってお尋ねしても、いいわって。
でも・・・ってもじもじしてると、じゃあ開けてみてって。
だって、せっかくの贈り物なのに。
ぜんぜん奥様は興味なさそうで。
だけどね、あたしにはとっても優しくしてくださるの。
ご自分のおうちにいらした時の侍女があたしくらいの子だったって。
やっぱりみなしごで。
はじめは小さいの・・・金縁で紺色のビロード張りの平らな箱。
きっと宝石だ。
お渡しすると開けられた。
わあって声、出しちゃった。
だって真っ赤な宝石だよ! すっごく大きい! それもたっくさん!
たぶんルビーだ、あたしだってそのくらい知ってる。
こんな素敵なの、ヴェーラお嬢様のとこでも見たことない。
なのに奥様はすぐ蓋をしてしまってあたしに渡されて。
思い切って、着けてみてくださいませんかってお願いしてみた。
だって、そしたらもっと輝くんじゃない、宝石だって。
え? ってお顔されたけど、お許しくださった。
後ろに回って着けて差し上げる。
石や金鎖の重さで手が震えちゃった。
金色の髪や碧い瞳にすっごく似合う!
若旦那様がお選びになったのかな?
あの・・・恐い若旦那様が?
重いほうには・・・ああ、重いはず、だって新聞やら雑誌やらがいっぱい。
一冊お見せすると、奥様は箱のところまで来られて。
最初は驚かれたみたいだったけど、すぐにこにこして次々と手に取られていた。
どこの国の言葉?
これはフランス語みたいだし、あとは・・・いろんな国の字だってことぐらいしか分かんない。
でも・・・これは、ロシアのだよね?
まさか!
だって奥様はお分かりにならないのに。
なのに、一番喜ばれたのはその文字のだったんだ。
ずっと心配だったから、ほっとしたよ。
こんな呪文みたいな字が奥様をお元気にしてくれるんだったら、もっと前からくださればよかったのに。
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