翡翠の歌

15 Лена:わくわくしない?




今日はアンナ様がとっても張り切ってる。


ヴェーラお嬢様の贔屓のお店から、おかみさんとお針子たちがどっさり持ってきた。
テーブルいっぱいに並べて・・・ほんと、きれいなのばっかり。
アンナ様がフランス語でご意向を聞きながら、布やデザインを選んでる。


これで何着目だろ。
若奥様だって、こんなにはお作りになってなかった気がするけど。


でも奥様はまるで興味ないみたい。
どうしてかな・・・あたしだってわくわくしちゃってるのに。
こんなきれいなドレスでパーティーに・・・素敵!
奥様について、そんなとこ行ってみたい、もちろん覗くだけだけどね。


キラキラした青いのと、薔薇の花がいっぱい刺繍されたのを選んで、デザインも決めて採寸して、おかみさんたちは帰っていった。
本当に作り甲斐がありますわ、なんて言ってたけど、お世辞じゃないよ、奥様って、すっごくすっごくおきれいだもん。
だけどさ・・・襟は高くして、袖は長くしてって。
あたし、知ってる。
傷跡がひどいの、体中。


今も・・・時々寝台に血が染みてる、若旦那様がいらっしゃると。
この前は本当に酷かったよ。
でも奥様はなんにもおっしゃらないし、アンナ様も黙ってお薬や香油を塗って差し上げるだけ。





夕方には若旦那様からの贈り物が届いたんだ、こんなの、初めて。
大きくて重い箱と小さな箱。


奥様はずっと外を見てらっしゃる、いつものように。
お開けしましょうかってお尋ねしても、いいわって。
でも・・・ってもじもじしてると、じゃあ開けてみてって。
だって、せっかくの贈り物だよ、早く見たいじゃない?
なのに、奥様はぜんぜん興味なさそうで・・・ううん、もしかして、ちょっと怒ってる?


だけどね、あたしにはとっても優しくしてくださるの。
ご自分のおうちの侍女が、あたしくらいの子だったって。
やっぱりみなしごで。




はじめは小さいの・・・金縁で紺のビロード張りの平らな箱。
小さいったって、もうひとつの大きいのに比べれば、って話だよ。
四段になってて、ひとかかえもあって、ずっしり重くて・・・きっと宝石だ。


それは当たりだったんだけど、思わず、わあって声、出しちゃった。
だって真っ赤な宝石だよ!  すっごく大きい! それもたっくさん!
たぶんルビーだ、あたしだってそのくらい知ってる。


こんな素敵なの、ヴェーラお嬢様のとこでも見たことない。
なのに奥様はすぐ蓋をしてしまって。


思い切って、着けてみてくださいませんかってお願いしてみた。
だって、そしたらもっと輝くんじゃない、宝石だって。
え? ってお顔されたけど、お許しくださった。


後ろに回って着けて差し上げる。
石や金鎖の重さで手が震えちゃった。
金色の髪にも碧い瞳にもすっごく似合う!
こういうの、見慣れてるはずのアンナ様もびっくり顔だよ。
若旦那様がお選びになったのかな?
あの・・・あの恐い若旦那様が?




大きいほうには・・・ああ、重いはず、だって新聞やら雑誌やらがいっぱい。
一冊お見せすると、奥様は箱のところまで来られて。
最初は驚かれたみたいだったけど、微笑んで次々と手に取られていた。


どこの国の言葉かな?
これはフランス語みたいだし、あとは・・・いろんな国の字だってことぐらいしか分かんない。
でも・・・これは、ロシアのだよね?


まさか!
だって奥様はご存じないんだよ?
読めないじゃない。


なのに、一番喜ばれたのはその文字のだったんだ。




わけわかんないけど、ずっと心配だったから、ほっとしたよ。
こんな呪文みたいな字が奥様をお元気にしてくれるんだったら、もっと前からくださればよかったのに。





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