翡翠の歌

13 浮遊




(1)



女など・・・抱けば済むと思っていた。
抱き続けられれば・・・受け入れ、従うと・・・お前でも所詮は・・・同じだと。

私を見るとひどく怯えるようになってしまった・・・そして、瞳の奥には軽蔑と敵愾心。
そんなお前を見たいのではない、そんな瞳で見られたいのではない。
あの優しい微笑み、無邪気な振る舞い、時折見せる強く碧い瞳・・・だが・・・。
野に咲く花を手折った当然の帰結なのか。

それでも拒みはせぬ、あいつのために。
奴はお前と引き換えに生き永らえているとは思ってもおらぬだろう。
一生報われなくとも、このまま抱かれ続けるのか。

目を逸らし涙を流し奴の名を口にする・・・それらが私の怒りをかうと知り、お前は必死に堪えている、私の意に沿おうとしている。
ならば・・・次は・・・私を愛せと命ずるか。

馬鹿馬鹿しい。
すべきなのは・・・早く女にすることだ。
そうすれば楽になる・・・諦めと言うものを知るがよい。


*     *     *     *     *



(2)



お前が本当に女になったと言うことだ・・・


あれから幾度抱かれたろう。
これから幾度抱かれるだろう。

彼が私を手放すことはない、例え鍵の懸念が消えたとしても。
これは、確信。

本邸で垣間見た不仲な夫婦。
自分より身分の高い妻、そのおじの臣下。
私は格好の不満の捌け口。

この地に頼るものも逃げ出す力もない。
その上、捕えておく御命令まで受けている。
自分の屋敷に閉じ込め、忠実な部下や使用人に見張らせ、気が向いたら訪れて私の意志など問うこともなく抱いて帰って行く。
嘘でも優しい言葉一つなく、口から出てくるのは私を辱め貶める刃だけ・・・まるで彼自身が何かを恐れ、敢えて封じ込めているかのように。

そう・・・考えなど確かめる必要もない。
人質をとっているのだから・・・到底手の届かないシベリアの彼方に。

この屋敷からもこの世からも逃れることはできない。



女に・・・。

せめて無味乾燥な苦痛だけならよかったのに。
私の知らない私があの男の腕の中で嬌声をあげてしがみつき、快感を求めている。
もう、彼を想う資格すらない。


清純な顔をして喘ぎ方は一人前だな 誰に教わった?  母親か? 何しろ体がいい、男を虜にする体だ 匂いも吸い付く肌も締め付け方も・・・母親譲りか、アルフレートの女 これならば娼館で高い客を取れる

いつまでも改めぬその態度は計算づくか? 抵抗したほうが男は燃えると? そんな術まで教えたか、大した女だ、お前の母親は 売り飛ばされたくなくばもっと主に尽くせ


妾の子は妾なの?

狂いたい、狂ってしまいたい。
肉体はあの男にやろう。
せめて心だけは、彼の元に・・・汚れ切らないうちに。


アラバスターの箱の底。
銀行と口座の情報を忍ばせた。
私の心が望み通り浮遊しても、これでお姉様に災いが及ぶことはない。





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