さっき若旦那様がいらしたから、お薬は持って行ってなかった。
ちょっとして、なんかが落ちて壊れる音が何度もして、あとは静かになった。
どうしようか、アンナ様は・・・え? 満足そうな顔?
なぜ?
「レーナ、明日からは奥様とお呼びするのよ」
「え? なんでですか?」
「明日になればわかるわ」
その夜、若旦那様はお泊りになった・・・こんなの初めて。
*
朝餐のあと若旦那様が出発されて、アンナ様とあたしはマフカ様、ううん、奥様のところに行った。
なんかおかしい、香炉や燭台が落ちてるし・・・これ、血・・・?
なのにアンナ様は驚いたふうもなく寝室に向かったの。
扉のとこで、ここで待ってなさいって言われた。
中はよく見えなかったけど、アンナ様は新しい部屋着を持って寝台のそばで声をかけたみたい。
それから控えの間にお連れして行った。
でも一人じゃ歩けない?
どうしたんだろう。
*
すぐに寝室と居間を整えてって言われたから、カーテンを開けた。
寝台は見たことないくらい乱れて、ここにも血が付いていて・・・本当にどうしたんだろ。
心配になったけど急いでリネンを取り替えて。
落ちてた部屋着も壊れた置物も集めて床を掃除して、暖炉の火を強くしたところにアンナ様に支えられて戻ってらした。
湯浴みされてきたみたい。
それから居間で朝食をおとりになった。
*
「アンナ様、マフカ様、あ、奥様はどうされたんです? 何が? どこか怪我されたんですか?」
「結婚されたのよ、若旦那様と」
「え? 結婚? でも若旦那様は・・・」
「貴族の旦那様はね、何人とも結婚できるの」
「へえ、そうなんですか。あの、でも・・・結婚式はされませんでしたよ?」
「ああ、必要ないのよ、二人目の結婚には、式はね」
「・・・あのう・・・」
「何?」
「いいえ、何でも・・・ないです」
続けたら怒られそうで言うのやめたけど、結婚ってさ、幸せなことだよね?
だけど・・・奥様は・・・そんなふうに見えなかったよ。
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